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いきなりですが、筆者には、物心付いた頃からの持病があります。気管支喘息(きかんしぜんそく)です。今回の記事は、喘息を持つお子さんや、女性の喘息患者さんでまだこの件に気づいていない方にぜひ読んでほしいです。人生を後悔しないために。
※喘息にもいろいろ種類がありますが、以下の文中では、大きく括って喘息としています。また、一般的に「生理」という言葉の方が使われるかも知れませんが、以下の文中では医学用語に合わせて「月経」としています。
というわけで、本日のテーマは「月経と喘息」です。いつものハンドメイドではありません。ご容赦ください。
意外と知られていない、月経周期によって喘息症状が悪化する現象
「喘息」って、結構メジャーな病気ではないですか?どなたも名前くらいは聞いたことがあり、「ゴホゴホ咳が出たり、呼吸が苦しそう」など、病気のイメージも持っていると思います。
さて、厚生労働省の資料「アレルギー疾患の現状」(*1)によれば、喘息の患者数は、平成26年の推計で117万7,000人とされています。そのうち、38%は0~19歳の子どもです。感覚的には、クラスに一人や二人はいるよね、という感じでしょうか。花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を入れると、もっと人数が多い感じかも。さて、アレルギー疾患の患者は、2005年では日本人の約3人に1人でしたが、2011年時点では約2人に1人と、大幅に増加しているのです。(広報誌「厚生労働」*2より)
…ということなので、もはや国民病でしょうか。喘息はポピュラーな病気であるにも関わらず、このことは意外と知られていないのではないでしょうか。
それは、月経前や月経中に、喘息が悪化する患者がいる、ということです。
月経喘息、あるいは月経前喘息とは
月経周期に合わせて悪化する喘息は「月経ぜん息」あるいは「月経前喘息」と呼ばれ、月経がある女性のぜん息患者のうち1/3に起こり、月経が始まるだいたい2~3日前から症状が悪化するといわれています(*3)。
原因ははっきりと解明されていませんが、月経に伴うホルモンバランスの変化が関連していると言われています。
とはいえ、月経は初潮から閉経まで、女性が長ければ人生の半分以上の期間、ほぼ毎月やってくる現象です(生涯出産回数が少なくなりがちな現代女性は尚更)。発作のトリガーを避けるのが鉄則の喘息患者にとって、発作のトリガーが必ず起きて、避けられないというのはなかなか頭の痛い問題です。
そしてさらに、頭の痛い問題があります。それは、トリガーであると大っぴらに言えないことです。
「生理前に喘息発作がひどくなるんです」と主治医に伝えられる女子中高生が、どれだけいるでしょうか
現在アラフォーの筆者ですが、「月経周期と喘息、関係あるんじゃない?」「生理の時って、吸入も何も薬効かなくならない?」と気づいたのが中学生の時でした。でも、自分の主治医(男性)に「生理の時に発作がひどくなるようです」と実際に伝えられたのは、高校生になってからでした。
なんでかというと、次のように思っていたからです。
- 医者とはいえ、男の人に生理の話をしてはいけないと思っていた
- 生理と月経が関係あるなんて、聞いたことない。自分の変な思いつきかも
当時、二十数年前、スマホもネットもない時代です。中学生には調べようがありませんでした。病院のパンフレットなどにも「月経前喘息」とか、「月経関連喘息」といったことは、まったく書かれていませんでした。それがそういう名前の付いた症候群であることすら、わからなかったのです。
最近、”生理の貧困”という言葉が話題に上るようになりましたが、普通に健康な人の生理でさえ、「病院に行く」「誰かに相談する」というハードルが高いのに、喘息が~という話はなおさらです。
また、お医者さんのほうもこの現象をわかっていない方が多いようです。見出しで”「生理前に喘息発作がひどくなるんです」と医者に言える女子中高生がどれだけいるか”と投げかけていますが、その少数派であった私は、ありったけの勇気で聞いてみたことがあります。
はじめて当時の主治医に話したときは、「そういう女性の患者さんは多いんだけど、どうすることもできないんだよね…」ということを言われました。
それって、二十数年前の話でしょ?と思われるかもしれませんが、数年前(2016年頃)にかかっていたアレルギーの専門医に話した時でさえ、「よく勉強していますね、そういうことがあるんですよ!」という反応でした。
大学生になり、英語を無茶苦茶勉強し、大学のパソコンで海外の医療論文を漁って、ようやく「月経前喘息」という言葉に行きつきました。2003年くらいだったと思います。しかし、そのときに出会った論文では、「月経周期は喘息の悪化に関連していることがうかがえたものの、個人差が大きく統計上はっきりとした結論を出すに至らない」、という結果でした。このため、さらなる研究が必要だと結んでいます。このとき、私は「この問題を研究している人が、この世の中にいるんだ!」と、希望が持てたものです。たとえ、その段階でははっきりとした結果が出ていなかったとしても。
月経と喘息症状の関連性は、2012年の研究でやっと明らかに
そして約10年後、2012年にようやく月経周期と喘息の関連性を示す研究結果が報告されました。
ノルウェーの大学病院が主導で行った女性の喘息患者を対象にした研究(*4)では、次のようなことがわかっています。
「呼吸器症状は月経周期によって大きく変化することがわかりました。」
「喘息治療薬を月経周期に合わせて調整することで、喘息治療の有効性が向上し、女性の喘息に関連する障害や医療費が削減される可能性があります。」
海外で行われたこの研究により、ようやく月経と喘息の症状の関連性が明らかになった上、「月経ぜん息」や「月経前喘息」がある女性の喘息患者にとって、薬の調整などの改善策が提示されました。
「月経ぜん息」や「月経前喘息」への具体的な対策は、まだ確立されていない
しかし、その改善策である、どの時期に・それぐらいの量の薬を増やすか、はまだ確立されていません。あるいは、PMSなどの緩和に有効とされている低用量ピルやホルモン薬などによって、月経前後のホルモン変化の影響を抑えることで、間接的に喘息の症状も抑えることができるのかは、まだ未知数のようです。
具体的な対策が確立されにくいのは、いくつかの理由があると思われます。それは、個人差が大きいことに加え、女性はライフステージによってそもそもホルモン量が変化するので(妊娠期間中や授乳期間中など)、やはり研究が難しいのだと思われます。
女性喘息患者がするべきこと:月経周期と発作の関連性を調べる
もし、自分や自分の家族が女性喘息患者だったら、ぜひしてほしいことがあります。それは、月経周期と喘息発作・症状の悪化に関連がないかどうか、数ヶ月記録をとって調べる/調べるように促すことです。もし、関連がありそうだとなったら、主治医に伝えて予め多めに薬を用意したり、外出時に吸入薬等を携帯することで、生活が楽になるかもしれません。
トリガーと呼ばれる喘息発作を引き起こす刺激(*5)は複雑で、ダニやホコリ、花粉などの主要なアレルゲンの他、タバコ、感染症、低気圧の接近などの天候の変化、など多岐にわたります。月経周期だけではないので関連を疑うことは、自分だけでは難しいかもしれません。しかし、毎月訪れる月経というものが喘息発作のトリガーだった場合、何十年も付き合っていく上で、わかっているのとそうでないのとでは、大きな違いがあるはずです。
月経周期に合わせて悪化する喘息(「月経ぜん息」あるいは「月経前喘息」)のこと、もっと多くの喘息患者さんに広まってほしい情報です。
引用文献
- 厚生労働省資料:アレルギー疾患の現状等、平成28年 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課
- 特集2 パパ、ママ、必見! 子どものアレルギー疾患お悩み相談室、広報誌「厚生労働」2018年4月号
- 女性のぜん息患者さんへ|独立行政法人環境再生保全機構
- Hormones in menstrual cycle ‘affect asthma’ – 9 November 2012 – BBC News
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